AI外観検査

2025-03-13  2025-08-05

日本のものづくりとAI活用

日本のものづくりは、高度経済成長期において飛躍的に発展し、自動車や電子機器をはじめとする多くの分野で世界トップクラスの技術力を誇ってきました。

その根幹には、厳格な品質管理体制があり、高い品質基準を維持することで世界中から信頼を得てきました。

特に製品に異常や不良品がないかを人の目で確認する「目視確認」は、製品の品質保証に不可欠な工程です。不良品が市場に出回ることを防ぎ、リコールのリスクを大幅に軽減する役割を果たしています。

品質確認は「製造業」だけでなく、食品工場でも実施されています。

しかし、この人の目で最終確認を行う「目視確認」には、人手不足や作業のばらつきといった課題が存在します。

そこで、AI外観検査の活用が注目されています。

AI外観検査装置は、製品にキズや欠け、不良品、異物の混入などがないかを検査する、AIを搭載した外観検査機器です。 この技術は、従来の人による目視検査を置き換える技術として期待されています。

こうしたAIの導入により、これまで人手に頼っていた検査工程に変革をもたらし、効率化や品質の安定につながると考えられています。

実際にAI外観検査を導入することで、以下のようなメリットが得られます。

AI外観検査メリット

AI外観検査メリット
  • AIによる自動化により、検査時間を大幅に短縮し、生産性を向上
  • 24時間稼働が可能であり、夜間や休日などにも検査を行うことができます。
  • 客観的に判断するため、検査員の熟練度や体調によるバラつきを抑え、安定した品質を維持
  • 人件費削減でコスト削減

それでは、AI外観検査とは具体的に何か、従来の検査装置との違いやその仕組みについてご説明いたします。

AI外観検査と従来の外観検査装置の違い

AI外観検査装置は、製品にキズや欠け、不良品、異物の混入などがないかを検査する、AIを搭載した外観検査機器です。

従来の検査機械は、あらかじめ教えられた不良品やルールに従って判断するため、過去に見たことのない不良品には対応できず、見逃してしまうケースがありました。

一方、AI外観検査装置は、人間のように柔軟な判断が可能です。過去に見たことのない不良品であっても高い確率で検出できます。

これは、AIがあらかじめ学習した正常な良品データを見本(基準)として比較し、そこに違いがあれば、不良品として判断するという仕組みです。

AI外観検査における良品学習

つまり、「いつもと違う」という変化を捉えることで、不良品を見抜きます
これは、人が「なんか変だな」と感じるように、AIも「いつもの良品と違うぞ」と気づき、その違い=異常(不良)を検出するのです。

またAI外観検査は、人の感覚や経験を機械に落とし込み、人間に近い判断基準をもとに外観を検査できます。

具体的な仕組みは以下の通りです。

  1. 人の感覚や勘を数値化。
  2. AIはこのデータを元に不良品と良品の違いを分析し、そこから共通するパターンや法則を見つけ出す。
  3. AIが判断基準を作り出す。
  4. その基準に基づいて検査を行う。
少し分かりづらい部分もあるかもしれませんので、 ここからは よりわかりやすい例として、パンの検査を取り上げ、具体的にご説明します。

感覚や経験を学ぶAI外観検査とは?パンの検査でわかるAIの仕組み

例えばパンの検査では、焼きムラや焦げ、形状のチェックが行われます。

しかし、パンは毎回同じ形に焼き上がるわけではありません

人が検査を行う場合、「焦げの範囲がこれくらいなら問題ない」「膨らみもこれくらいなら良品」といった感覚で判断しています。

パンのAI外観検査

このような感覚に頼る検査も、AIに置き換えることが可能です。AIは、熟練者の感覚や経験を再現するために、以下の仕組みで学習し反映させています。

  1. 複数の良品パンの画像から特徴(色、テクスチャー、形状、膨らみ具合など)を数値化。
  2. この数値化された良品パンのデータの中から、AIが「どこまでが良品と見なされるか」という一貫した基準(法則)を見つけ出す。
  3. AIがこの数値を元に許容範囲を設定する。
  4. 検査対象のパンがその範囲から外れていれば不良品と判断。

これは、複数の「良いパン」(良品)の画像を学習することで、AIが「このくらいの色の範囲なら良品」「このくらいの形や膨らみなら良品」といった数値的な許容範囲を確立させています。その結果、熟練者が持つ『言語化しにくい感覚的な判断基準』をAIが取得します。

この方法以外にも、不良品の画像を大量にAIに学習させることで、不良品を見つけることも可能です。

AI外観検査における不良品学習

この不良品学習は、良品ではなく、不良画像の方を重点的に学習します。そして、不良があるかどうかで良品か不良品かを判定します。

不良品学習
  1. 「焦げ」「欠け」「異物」などのそれぞれ不良の画像を個別に学習。
  2. それぞれの特徴を分析・把握。
  3. 画像に不良の特徴(「焦げ」「欠け」「異物」など)が写っていれば、不良品として判別する。
この仕組みにより、「この焼き色は焦げである」「この形状は異物である」といった不良を認識し、不良品かどうかを判断できるようになるのです。

とはいえ、AIが常に正しい判断をするとは限りません。

そこで次に、判断基準に誤りがあった場合に、どのように修正できるのかを簡単にご説明します。

誤りを修正しながら精度を高めるAIの仕組み

AI外観検査の再学習

もし判断基準に誤りがあった場合には、人がAIに「この部分は不良だった」といった正しい情報を与えたり、数値を調整して基準を修正したりします。

すると、AIはその基準を再学習し、学習と改善を繰り返しながら精度を高め続けます。 

つまり、AI外観検査は、人と同じように経験や感覚を取り入れながら、常に学習・進化し続ける検査システムです。 このようなAI外観検査が広く普及していけば、より正確かつ迅速な検査が可能となり、生産効率の向上にも大きく貢献するでしょう。

それでは続いて、 AI外観検査が実際にどのような現場で主に活用されているのか、具体的な分野別を見ていきましょう。

AI外観検査が主に活用されている分野

AI外観検査は、主に以下の分野で活用できます。

①製造業

  • これまでに見たことのない不良品への対応
  • 人の目でも見逃しがちな小さなキズの検出(良品との差が非常に小さいため、従来のルールベースでは判定困難)
  • 不良品と良品の判別基準が曖昧で、人の感覚や勘に頼らざるを得ない検査工程

②食品工場

  • 野菜・果物・パンなど、発育により個体差が大きく、形や色が毎回異なる食品の検査
  • 虫や髪の毛など、発生する異物が毎回異なり、種類も無数にあるような異物混入検査

この分野では、熟練作業者の経験に依存する工程が多く、目視検査がまだ多く残っています。

こうした課題を解決するために、AI外観検査の導入が期待されています。

次に、どのような製品や部品が検査対象になるのかをご紹介します。

具体的な検査内容と検査対象

①製造業おけるAI外観検査の対象製品

検査対象は多岐にわたり、さまざまな製品に対応しています。

もちろん、下記に挙げた製品以外についても検査が可能な場合がありますので、一度AI開発業者にお問い合わせください。

それではまず、AI外観検査でどのような検査が行えるのか、その主な内容や機能を見ていきましょう。

AI検査の主な検査内容・機能

AI外観検査システムは、主に以下の検査が行えます。

  • 合否判定(各種製品が良品か、不良かどうか)
  • 文字認識(金属部品の文字認識、QRコード、バーコードの文字識別、ディスクリート部品の文字認識が正確に印字•記載されているかどうか)
  • 計測(ひずみ計測、サイズ、深さ、凹凸、数量の自動カウント)
  • 位置決め(検査対象物の正確な位置特定。)

続いて、こうした検査内容をもとに、実際にAI外観検査が対応できる製品や部品について見ていきましょう。

対応素材・対象製品の例

AI外観検査は、以下のような多種多様な素材・製品に対応可能です。

  • 金属部品
    自動車部品(ヘリカルギア、ベベルギア、平歯車、リングギア、シャフトなど)、ダイカスト品、プレス加工品、切削部品、金属プレート、コイル、電極メッキ など
  • 樹脂製品
    樹脂バルブ、ピストンブーツ、ケース部品 など
  • 透明・半透明素材
    ガラス面、液晶・偏光ガラス、導光板、透明フィルム、点滴容器 など
  • 電子部品
    電子基板、ディスクリート部品、SMT部品、特殊形状部品 など
  • その他素材
    塗装品、メッキ品、皮革、布生地 など

次に、AIで検出が可能な欠陥・異常について詳しくご紹介いたします。

AIが検出可能な主な欠陥・異常

AIは以下のような欠陥・異常を高い精度で検出可能です。

表面の欠陥

  • キズ(ガラス、金属、塗装面、布など)
  • 凹み・打痕(成形品や金属ワークなど)
  • 変形(ひずみ、形状の歪み、しみなど)
  • クラック(微細な亀裂)
  • バリ(成形不良による突起)
  • 鋳巣(鋳造品に生じる内部欠陥)

色・見た目の異常

  • 色ムラ(塗装・メッキなどのムラ)
  • 白点・暗点(点状の欠陥)
  • 汚れ・異物混入(髪の毛、虫、金属片、石、ビニールなど)

部品関連の異常

  • 欠品(部品の欠損)
  • 位置ずれ(取付け位置のズレ)
  • 誤部品(異なる部品の取り付け)
  • 反転・極性の間違い(部品の向きや極性違い)
  • 末半田(はんだ不良)

繊維・布関連の異常

  • 糸はね、糸抜け、目ずれ(織りの不良)

続いて、食品分野におけるAI外観検査の活用についても見ていきましょう。

②食品の検査

食品は個体差が出やすく、検査基準の標準化が難しい場合もありますが、AIの学習機能によってその「あいまいさ」に対応し、高い精度の検査を実現しています。

  • 異物混入
    毛髪、ビニール片、金属片、虫、小骨など
  • 外観異常
    欠け、割れ、焼け、色ムラ、汚れ、変形など
  • 内部検査
     ビニール片の封入、小骨の残留、金属片の混入など、目視では確認しづらい内部異物も対象
  • パッケージ関連
     包装の噛み込み、賞味期限の印字ミス、破れ、傷、内容物の欠けや凹み など

食品分野別の具体的な検査例

  • 菓子類
     チョコレートの欠け・割れ、焼き菓子の焼きムラ、クッキーの割れ
  • 水産物
     エビの殻のむき残し、魚の骨や小骨の有無
  • 加工食品
     マーガリン容器の包装不良、ジャムへの異物混入(ビニール・金属片など)
  • 生鮮食品
     さつまいも・にんじんなどの規格外形状、野菜の変色や傷み 

いかがでしたでしょうか。AI外観検査が、さまざまな検査に対応できることをご理解いただけたかと思います。

それでは、次に具体的な活用例を見ていきましょう。

それでは具体的に導入事例を見ていきましょう。

導入事例

ヨシズミプレスにおけるAI検査の活用

導入前の課題

ヨシズミプレスは、プレス加工技術に強みを持つ日本の製造業企業です。近年では、AI技術を活用した外観検査システムの導入など、積極的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。

その一環として、AI外観検査を導入しました。ヨシズミプレスでは、月産50万個の製品を目視検査しており、検査員6名が約10日間を要していました。特に、自動運転用センサーに使われるレーザーダイオード部品は直径5mm程度と小さく、顕微鏡での検査が必要でした。この作業は非常に負担が大きく、従業員の疲弊や作業効率の低下が課題となっていました。

AI導入後の変化

AIによる自動検査システムを導入し、整列機を活用することで、目視検査の負担が大幅に軽減されました。製品のうち、AIが良品と判定した約48万個はそのまま出荷され、不良品と判定された約2万個のみを目視で再検査する体制を確立しました。

この結果、検査に要する総時間が月あたり40%削減され、目視検査の対象が95%減少(月50万個→2万個)しました。これにより、目視検査の対象が大幅に減少し、作業負担が軽減され、利益率の向上にもつながりました

参考サイト:東京商工会議所公式サイト. “中小製造業の好事例集”.https://connected-robotics.com/,(引用日2025-3-5)

まとめ

日本の製造業は、長年にわたり厳格な品質管理体制を築き、世界的に高い評価を得てきました。その中で、製品の品質保証に不可欠な「目視確認」は、不良品の流出を防ぐ重要な役割を担っています。しかし、近年では人手不足や作業のばらつきが課題となり、従来の目視検査の限界が指摘されています。

この課題を解決するために、AI外観検査が注目されています。AIは、大量の画像データを学習することで、不良品の検出精度を向上させ、検査の自動化を実現します。従来の機械とは異なり、AIは「経験」や「勘」を学習し、柔軟に判定基準を修正できる点が大きな強みです。

AI外観検査の導入により、検査時間の短縮や24時間稼働の実現、見落としの削減、安定した品質維持、人件費の削減など、さまざまなメリットが得られます。特に、インライン検査やオフライン検査にAIを組み込むことで、従来の検査方法をより効率的かつ高精度なものへと進化させることが可能です。

実際に、ヨシズミプレスではAI外観検査の導入により、検査時間を40%削減し、目視検査の対象を95%削減することに成功しました。これにより、作業負担の軽減と生産性向上が実現し、企業の競争力強化にもつながっています。

AI外観検査は、今後の製造業における品質管理の新たなスタンダードとなり、日本のものづくりの競争力を維持・向上させる重要な技術として期待されています。