AI外観検査ロボット

2025-08-05  2025-08-05

AI外観検査×ロボットで変わる!製造業の目視検査

近年、AIは急速に進化し、人の感覚や判断を学習できるようになってきました。それに伴い、製造業の在り方も大きく変わろうとしています。そうした中で最初に登場したのが「AI外観検査」です。これは、これまで人が行っていた目視確認をAIが代行する外観検査機器で、傷や欠け、色ムラといった欠陥を自動で検出することができます。

しかし、従来のAI外観検査は固定カメラによるもので、製品の上面や下面など、限られた角度からの情報しか取得できませんでした。 センサーやカメラを何台もつけたとしても、撮影できない死角が生まれていました。 そのため、立体的な構造を持つ製品や、角度によって見え方が変わる製品(鏡など)に対しては、検査精度に限界がありました。

「AI外観検査ロボット」のできること

「AI外観検査ロボット」

そこで、こうした課題を解決するために生まれたのが「AI外観検査ロボット」です。 AI外観検査ロボットは、AI外観検査機器とロボットを組み合わせた新たな外観検査機器です。

AI外観検査機器にロボットアームの柔軟な動きを組み合わせることで、製品を360度あらゆる角度から検査できるシステムです。製品の検査したい面に合わせて、カメラ搭載されたロボットアームの位置や向きを細かく調整し、全方向から検査を行います。

上面・下面はもちろん、側面、断面、さらには内側まで検査ができ、従来の固定カメラ型検査では難しかった多面的な品質チェックが可能です。 このロボットは今まで通常のAI外観検査では難しいとされていた以下の製品を検査できます。

  • 局面(一面だけでなく多面あるようなもの)
  • カガミやガラス鏡面(光加減で見え方が変わるようなもの)
  • 円筒形状の部品や鋳造品(中まで検査が必要なもの)
  • 立体的なもの
  • 面部の高さや凹凸などの微細な違い
大型ワーク

他にも、自動車などの塗装が施された大型のワークにも対応できる点も、AI外観検査ロボットの大きな特徴の一つです。

このようにAI外観検査ロボットは、これまで困難だった360度あらゆる方向からの検査が可能になってきています。

ただし、こうしたAIロボットによる高度な検査は、AI技術だけでなく、さまざまな種類のロボット技術やカメラとの組み合わせによって実現されています。 ここからは、AI外観検査ロボットの主な特徴について解説します。

AI外観検査ロボットの主な特徴

オートフォーカス機能

AI外観検査ロボットには、被写体の距離や角度の変化に応じてピントを自動で調整する「オートフォーカス機能」が備わっているものもあります。オートフォーカスとは、AI外観検査ロボットの“目”のようなものであり、動体視力に相当する重要な役割を果たします。野球をする時に動きながらボールを捉えるのと一緒で、オートフォーカスは、動きながら目のピントを合わせる作業を行います。

ロボットに搭載されたレンズを微細に移動させながら、画像全体のコントラストの変化を評価し、最もコントラストが高くなる位置にピントを合わせる仕組みです。検査対象の画像を常にシャープに保ち、微細な傷や欠陥をAIがより正確に判別できるようになります。

多関節ロボット

出典:株式会社デンソー

AI外観検査ロボットには、主に多関節ロボットが採用されています。多関節ロボットとは、3つ以上の関節を持ち、人間の腕のように複雑な動きが可能なロボットです。関節が多いため、単純な縦横の動きだけでなく、捻る・曲げるといった自由度の高い動作を行えます。

たとえば、立体的な製品表面を這うように検査するには、縦・横の動きだけでは不十分で、あらゆる角度から対象にアプローチできる柔軟な動きが求められます。これを可能にするのが多関節ロボットです。

AI外観検査ロボット構成の選択肢

AI外観検査ロボットは、多関節ロボットをベースにしながらも、用途や導入環境に応じて、さまざまなタイプのロボット構成を選択できます。どの構成を採用するかは、導入企業の運用方針や検査対象の特性によって決めましょう。以下でAI外観検査ロボット構成について紹介いたします。 以下に代表的な構成例を紹介します。

オフラインロボットとインラインロボット

オフラインロボット(固定型)

オフラインロボットとは、固定された位置で検査を行うタイプのロボットです。位置決め精度や動作精度が非常に高く、寸分の狂いなく同じ動作を繰り返すことができます。

製品を静止させた状態で、時間をかけて360度全方向から検査を行うことができるため、微細な傷・汚れ・異物混入などの高精度な検出に適しています。

インラインロボット

検査対象が生産ライン上を流れてくる間に、インラインロボットが瞬時に外観検査を実施します。 ロボットは、ライン上を移動する対象物に対して360度カメラを高速で動かしながら、全面をチェックします。停止させることなく連続的に、かつ高精度な検査が可能となります。

「協働ロボット」

次に「協働ロボット」は、人間と協調して作業できるロボットで、安全機能が組み込まれており、安全柵なしでも人と同じ空間で作業が可能です。小型なものが多く柔軟な配置や作業範囲に対応できるため、現場での使い勝手が良い点が特徴です。

「特殊環境対応型ロボット」

「特殊環境対応型ロボット」は、クリーンルームや高温・低温など、特殊な環境下での検査に対応できるように設計されています。

前工程まで対応する自律型AI検査ロボット

出典:株式会社デクシス公式サイト

また、前工程の自動化まで対応可能なAI外観検査ロボットも登場しています。

これらのロボットは、不良品を検出するだけでなく、ロボットハンドで不良品を取り除いたり、次工程への搬送のためにピッキングまで行うことが可能です。 まさに、人の作業を代替する存在として進化しています。

出典:株式会社デクシス公式サイト

このAI外観検査ロボットは、人が対象物を手に取って回すように、ロボットが検査対象をくるくると回転させながら全面検査を実施します。 未来のロボットと言えます。

出典:株式会社デクシス公式サイト.人型外観検査システム 外観けんた君.https://decsys.co.jp/product/system/kenta/,(引用日2025-06-04)

導入の際の注意点

導入を検討する際には、いくつか注意しておきたい点があります。

まず一つ目は 「ロボットのティーチング」です。AI外観検査ロボットの導入においては、画像に対するアノテーションだけでなく、ロボットそのもののティーチングも重要になります。製品があまり変わらず、品種も少ない場合は、ティーチング作業を提供企業に委託しても問題ありませんが、リードタイムが短く、多品種生産を行っている現場では、品種が変わるたびに最適な検査角度や移動経路をプログラミングする必要があり、その分ティーチングにかかる時間も増大します。

二つ目は コスト面 です。AI外観検査ロボットは非常に高価な設備であるため、導入には慎重な判断が必要です。導入後にコスト回収が可能かどうか、しっかりと試算しておくことが大切です。また、AI外観検査ロボットを取り扱う企業はまだ多くなく、技術者も限られていることから、メンテナンス費用が高くなりがちです。ラーニングコストやメンテナンス体制についても事前に確認しておきましょう。

三つ目は、 オートフォーカスの精度 です。ロボットが角度を変えながら検査を行うため、常に正確にピントを合わせられるかどうかが、検査精度に大きく関わります。ピントが合っていない画像では、微細な傷や欠陥の判別が難しくなります。コントラスト検出方式によって常にシャープな画像を得ることで、AIによる欠陥検出の正確さを維持できます。

そして最後に、検査時間も重要なポイントです。ロボットアームによる動作が必要なため、従来の静的な外観検査と比較すると、1個あたりの検査時間が長くなる傾向があります。ただし、ロボットは24時間稼働が可能であり、人手と比較しても安定した作業が行えるため、総合的に見ると十分にメリットがあります。

AI外観検査ロボットの導入事例

AI外観検査ロボット導入前課題

出典:株式会社HACARUS

旭工精株式会社はダイカスト製法を用いて自動車・バイク部品や家電製品など、精密さが求められる複雑な形状の部品を製造しています。そのため、上面・下面・側面といった多方向からの外観検査が必要不可欠でした。

は、溶融させた非鉄金属(主にアルミニウム、亜鉛、マグネシウムなどの合金)を精密な金型に高速・高圧で注入し、短時間で寸法精度の高い複雑な形状の製品を大量に成形できる鋳造技術です。製品は鋳造後、下処理や機械による切削加工を経て、組み付けを行い、最終製品として納品されます。

ただし、ダイカスト製品は金属であるため、金型の劣化や摩耗により日々わずかに形状や模様が変化します。そのため、「どこまでを良品とし、どこからを不良品とするか」の判断が非常に難しく、最終的には作業員の目視に頼らざるを得ない状況でした。

AI外観検査ロボット導入効果

出典:株式会社HACARUS

そこで、 360度検査が可能なAI外観検査ロボット を導入しました。ロボットアームが製品をさまざまな角度から捉えて検査することで、従来人が担っていた目視検査作業を大きく代替できるようになりました。

さらに、あらかじめ設定された基準だけでなく、AIが学習を重ねることで、従来見落とされていた不良品の兆候まで検出できるようになり、検査の質も向上しました。その結果、目視検査に従事していた作業員は4名から2名へと削減され、省人化と検査精度の両立を実現しています。

出典:株式会社HACARUS公式サイト.旭工精株式会社 ダイカストの表面検査の自動化を実現する協働ロボット+AI外観検査【動画】.https://hacarus.com/ja/,(引用日2025-04-14)

AI外観検査ロボットのメリットとデメリット

AI外観検査ロボットのメリット

AI外観検査ロボットの導入には多くのメリットがあります。まず最も大きな利点は、 人の目に頼っていた外観検査を自動化できる点です。AIによる画像認識とロボットアームの動作を組み合わせることで、製品の上面・下面・側面・断面・内側など、360度全方向からの検査が可能となり、人手では難しい微細な欠陥の検出も精度高く行うことができます。

特に、複雑な形状を持つ製品においては、従来の固定カメラでは対応が難しかった 多面的な検査を、安定した品質で実現できます。また、AIは学習によって判定基準を高度化させていくため、従来見逃していたような軽微な不良も早期に発見できる可能性があります。

さらに、検査工程の省人化や作業の24時間稼働が可能 になる点も大きなメリットです。これまで4人で行っていた目視検査を2人に削減するなど、人手不足の解消や人件費の削減にもつながります。

  • 人の目に頼っていた外観検査を自動化できる点
  • 多面的な検査を、安定した品質で実現
  • 検査工程の省人化や作業の24時間稼働が可能
  • 人手不足の解消や人件費の削減

AI外観検査ロボットのデメリット

一方で、導入にはいくつかの課題や注意点もあります。まず、 初期導入コスト が非常に高額であることです。本体価格だけでなく、設置やティーチング(動作や検査角度の設定)、AIの学習用データ作成、メンテナンス費用なども含めると、相応の投資が必要となります。

また、多品種少量生産の現場では、 品種が変わるたびにティーチング作業が発生 するため、運用負荷が大きくなる可能性があります。この点は、製造現場の柔軟性を保つうえで重要な検討ポイントとなります。

さらに、ロボットはカメラの位置や角度を変えながら動作するため、 1個あたりの検査にかかる時間が従来よりも長くなる 場合があります。とはいえ、ロボットは夜間や休日を問わず連続稼働が可能であるため、トータルで見れば生産性の向上に寄与します。

このように、AI外観検査ロボットは高精度な検査と生産効率の向上を両立できる強力なツールである一方、導入時にはコスト・運用面での課題もあるため、企業の製品特性や生産体制に応じた慎重な検討が求められます。

  • 初期導入、メンテナンス・ラーニングコストが高額
  • 品種が変わるたびにティーチング作業が発生
  • 1個あたりの検査にかかる時間が従来よりも長くなる

まとめ

AI外観検査ロボットは、これまで人が担っていた目視検査を自動化・高度化することで、検査の品質向上・省人化・生産性の向上を同時に実現できる次世代の検査ソリューションです。

特に、複雑な形状や多面的な構造を持つ製品に対しては、ロボットアームによる360度の柔軟な動きとAIの画像解析によって、従来の固定カメラでは不可能だった全方位の精密検査が可能となります。

もちろん、導入には初期費用やティーチング作業、検査時間などの課題もありますが、それ以上に長期的な人材不足の解消や品質安定化、検査工程の自動化といった大きなメリットを享受することができます。

今後ますます求められる製品品質の高度化や生産現場の省人化に向けて、AI外観検査ロボットの導入は製造業にとって大きな一歩となることでしょう。